2023年インフルエンザ
- 院長コラム
今年度もインフルエンザのシーズンが近づいてきました。
新型コロナウイルスが2023/5月より2類相当から5類に引き下がったことや入国規制の緩和などの影響もあり人の流れが増えてきました。インフルエンザの流行が例年よりも早まっており、第37週(9月11日から9月17日)におけるインフルエンザの定点当たり報告数は11.37と、「流行注意報基準」である定点当たり10.0人を超え、急速に増加しています。
都内において第37週(9月11日から9月17日)での昨年との学級閉鎖を比べても2022年は0でしたが2023年は207と明らかに増加しております。
インフルエンザワクチンを接種することにより65歳以上での発生予防率は34〜55%と言われております。(流行するインフルエンザ株によりばらつきはあります)
そして、65歳以上の死亡率は82%抑えるとされております。(厚労省ホームページより)
また、米国のデータですが65歳以下、特に若年者に対しても重症化を32%抑えるとの論文も出ております。(Grijalva CG et al. Clin Infect Dis. 2021 Oct 20;73(8):1459-1468.)
例年インフルエンザの流行は12月〜4月(ピークは1月末〜3月上旬)となっておりワクチン接種の予防効果は接種後2週間から5ヶ月と言われております。
そのために12月中までにはワクチン接種を行って置くことが望ましいです。
<少し細かい話>
☆インフルエンザウイルスの種類について
インフルエンザウイルスはウイルス表面にヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2つのスパイクが存在しておりA型・B型・C型の3種類が存在しております。
・A型
A型はHA,NAの変異が多くHAが16種類、NAが9種類の変異が見つかっております。
A型インフルエンザウイルスはHAを略し「H」、NAを略し「H」と表現しHAの16種類とNAの9種類のウイルスが持っている型によってH1N1〜H16N9といった略称で表現されます。2009年に大流行したトリインフルエンザはH5N1と表現しております。
A型インフルエンザはウイルス内部での変異型が多く世界的な大流行を起こしやすくウイルスによる免疫の持続も短いと言われております。
・B型
ウイルスの遺伝子がかなり安定しており亜型が少ないのが特徴です。そのため、A型に比べると流行の規模は小さいですが世界的・地域的な流行を毎年繰り返しています。また、ウイルスに対する免疫はA型よりは長く持続すると言われております。
・C型
季節によらず4歳以下の小児に感染します。乳児期に感染することがほとんどですが、症状が表れないことが多いです。また、ウイルスの遺伝子がB型以上に安定しているために免疫は長期にわたって持続し、1度かかると免疫が一生持続することが多いとされております。
☆インフルエンザウイルスの増殖方法について
細菌と異なりウイルスは感染した宿主の細胞内で増殖をします。
先ほども述べましたが、インフルエンザウイルスはウイルス表面にヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2つのスパイクが存在しております。
①ヘマグルチニン(HA)が咽頭や気管支の表面に存在する細胞の糖タンパク質と結合します。
②それによりインフルエンザウイルスが細胞内に取り込まれ細胞が感染します。
③取り込まれたウイルスは細胞膜を崩壊させウイルスの遺伝情報(RNA)を細胞内に放出させます。
④放出された遺伝情報(RNA)は感染細胞の核内に侵入しウイルスRNA・タンパク質(ウイルスの部品のようなもの)のコピーを作ります。
⑤インフルエンザウイルスに感染された細胞はウイルスのコピーをどんどん増殖させ指数関数的に増殖します。
⑥コピーされ増殖したウイルスは感染した細胞内で成長し外へと飛び出します。飛び出す際にはノイラミニダーゼ(NA)の作用により感染された細胞と増殖しコピーされたウイルスの切り離しを行います。そしてまだ乗っ取っていない細胞へ進入していきます。
この①〜⑥を繰り返しインフルエンザウイルスは増殖していきます。
☆抗インフルエンザ薬について
現在日本において主に使用されている抗インフルエンザ薬はノイラミニダーゼ(NA)阻害薬とCAPエンドヌクレアーゼ阻害薬の2種類あります。
・ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬
これにはタミフル(中外製薬)、リレンザ(GSK)、イナビル(第一三共)、ラピアクタ(塩野義製薬)とよく耳にするものがあります。
これらはA型、B型インフルエンザウイルスのNAを選択的に阻害し、感染した細胞内で増殖したウイルスを細胞外へと遊離するのを阻害することによりウイルス増殖を抑制します。
・CAPエンドヌクレアーゼ阻害薬
こちらはゾフルーザ(塩野義製薬)という薬剤になっており2018年に発売となっております。
このゾフルーザはRNA合成の開始に関わるCAPエンドヌクレアーゼを選択的に阻害、つまり感染した細胞内でウイルスのコピー作成を阻害する働きがあります。これにより感染細胞内でのウイルスの増殖を抑制します。
NA阻害薬、CAPエンドヌクレアーゼ阻害薬ともに発症48時間以内の早期に使用する理由としては増殖したウイルス自体を死滅させる効果がなく、ウイルスの増殖を抑制する働きのためです。
下記に現在処方可能な抗インフルエンザ薬の一覧とその特徴について記載します。
☆インフルエンザワクチンの中身について
インフルエンザワクチンの場合には、毎年流行を予想し4つの株に対するワクチンである4価ワクチンとなっており、2022-23シーズンのワクチンには以下の4つの株に対するワクチンとなっております。
- A型株
・A/ビクトリア/4897/2022 (IVR-238) (H1N1)
・A/ダーウィン/9/2021(SAN-010) (H3N2)
- B型株
・B/プーケット/3073/2013 (山形系統)
・B/オーストラリア/1359417/2021(BVR-26) (ビクトリア系統)