コラム

前骨間神経麻痺と後骨間神経麻痺

  • 手・手首の痛み

症状と診断

1.神経炎の特徴

肘周辺が痛み、肘が伸ばし難い日が続きますが、3~7日で痛みは消えます。その後、麻痺が生じていることに気づきます。
肩周辺では、同様なものに、三角筋などが萎縮する神経痛性筋萎縮症があります。

 

2.前骨間神経麻痺

病態

前骨間神経は正中神経が円回内筋を通過し浅指屈筋腱弓に入る手前で分岐し、正中神経本幹より背側を走行します。

圧迫される可能性がある部分は円回内筋の腱性起始部や浅指屈筋腱弓の他に長母指屈筋腱であるGanzter筋などがあります。

 

原因

疼痛や麻痺の出現する前に手関節や肘関節の屈伸、前腕回旋などを頻繁に行うスポーツや作業により誘発することがある。

 

症状

前骨間神経麻痺では母指と示指の第1関節の屈曲ができなくなりますが、皮膚の感覚障害はありません。
その時に母指と示指で丸を作らせると母指の第1関節過伸展(そり返り)、示指の第1関節過伸展となり、涙のしずくに似た形となり、“涙のしずくサイン”陽性になります。

 

診断

長母指屈筋、示指・中指の深指屈筋、方形回内筋の筋力検査を行います。
前骨間神経麻痺は“涙のしずくサイン”と感覚の障害のないことで診断できます。

筋電図検査(長母指屈筋腱、方形回内筋、正中神経支配筋)、レントゲン検査、MRI検査、エコー検査など必要に応じて行います。

 

治療

(保存加療)

発症から間もない時は誘発動作の禁止、ビタミンB12、疼痛があるときは鎮痛薬を投与します。

 

(手術加療)

保存加療を数ヶ月行い改善のないものは手術加療を行います。

神経剥離を行い半月〜1年ほど経過を見ても改善しない場合は腱移行(腕橈骨筋腱を長指屈筋腱に端側で示指深指屈筋腱を環指深指屈筋腱に側々縫合)や指関節の固定術を行います。

神経剥離の際に神経の絞扼や砂時計様のくびれがある場合は、何も所見がない場合に比べ剥離後の回復が見込まれる可能性が高いです。

 

3.後骨間神経麻痺

病態

上腕骨の橈骨神経溝を出た橈骨神経は前方に出て内側を上腕二頭筋と上腕筋、外側を腕橈骨筋、長橈側手根伸筋に囲まれた腔を通り、肘関節直上付近で感覚枝である橈骨神経浅枝と、運動枝である後骨間神経にわかれます。

後骨間神経は橈骨神経線枝と分岐後に短橈側手根伸筋の下に入り橈骨頭前方で関節包と密着しながら下降し、回外筋の浅層と深層の間に入ります。浅層の入口部は腱膜様になっておりFrohseのアーケードと呼ばれております。

この手前で神経は関節包に密着しているために動きに余裕がなく前腕回旋の際にFrohseのアーケードにより用意に牽引・ねじれ・圧迫をうけます。また、回外筋の出口部分でそれ以遠には神経は多発に分岐するため動きに制限があり圧迫を受ける可能性があります。

 

原因

・Frohseのアーケードでの圧迫

 

・ガングリオンによる圧迫

腕橈関節や近位橈尺関節から発生したガングリオンにより後骨間神経が牽引圧迫される。

 

・Frohseのアーケード以外の構造による圧迫

短橈側手根伸筋の近位縁や線維性バンド、神経を横切る血管なども後骨間神経を圧迫する可能性があります。

 

・原因不明の砂時計様の神経のくびれ

 

症状

後骨間神経麻痺では、下垂指(drop finger)になりますが、皮膚の感覚障害がありません。下垂指は、手首の背屈は可能ですが、手指の付け根の関節の伸展ができなくなり、指のみが下がった状態になります。

指を伸ばそうとする際に手関節は背屈できますが手指は伸展できず、(尺側手根伸筋が麻痺するために)やや橈屈位(母指の方に傾く)となります。

 

診断

後骨間神経麻痺は下垂指と感覚の障害のないことで診断できます。(前腕伸側の筋麻痺:総指伸筋、固有示指伸筋・小指伸筋、長母指伸筋、短母指伸筋、母指外転筋の筋麻痺)

筋電図検査、X線検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行います。

 

治療

(保存加療)

発症から間もない時は誘発動作の禁止、ビタミンB12、疼痛があるときは鎮痛薬を投与します。

 

(手術加療)

保存加療を数ヶ月行い改善のないものは手術加療を行います。

神経剥離を行い半月〜1年ほど経過を見ても改善しない場合は腱移行術(中指の浅指屈筋腱を骨間膜を通してor橈側手根屈筋腱を総指伸筋腱へ、長掌筋腱を長母指伸筋腱へ移行)を行います。

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